クリイロミヤマ(原名亜種)飼育記①
- 03, 2020 12:06
- クリイロミヤマ(原名亜種)
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またまた時間が空いてしまいました。今年は本当に忙しく、休日も夜中までずっと仕事したりしてます。
諸説ありますが、最新の分類によりますと、原名亜種と北部亜種の2亜種に分類され、いずれも台湾のみに生息しています。
私の知る限り2店舗で合計10ペア前後と記憶しています。
・あくまで私の認識している範囲
・基本的にお店に入荷した日(通関日とは限らず)
・以下以外にも個人の入荷もありますが、あえて入れていないものもあります
・店名は略称です
・複数のショップで入っている場合、同じ便の可能性があります
・来年の参考に国内離島は一応含めました
少しずつ時間ができたので溜まった記事を更新していきます。
今回はマイナーなオニクワガタ属の1種であるトリアピカリスオニクワガタの飼育記事です。1サイクル回したので、一旦まとめ。
オニクワガタの仲間であるPrismognathus属は個人的に非常に好きで、現在も6種類ほど飼育しています。
■トリアピカリスオニクワガタについて
オニクワガタの仲間は東南アジアを中心に約30種ほどが生息しており、大きく分けて、いわゆる日本のオニクワガタ系とキンオニクワガタ系の2タイプがいると思うのですが、ほとんどが後者です。今回紹介するトリアピカリスオニクワガタはどちらかというと、キンオニクワガタ系に属するタイプと考えられます。
どちらかというとというやや曖昧な表現を使用しているのは、このトリアピカリスオニはオニクワガタ属の中でも数少ない、長歯型が存在する種類だからです。
ちなみに、本種以外に顎が湾曲して伸びる(長歯型と言えるような)オニクワガタはプラティケファルスオニクワガタ(Prismognathus platycephalus)、カスタネウスオニクワガタ原名亜種(Prismognathus castaneus castaneus)、カスタネウスオニクワガタミャンマー亜種(Prismognathus castaneus sukkiti)、ミヤシタオニクワガタ(Prismognathus miyashitai)などです。
和名:トリアピカリスオニクワガタ
学名:Prismognathus triapicalis Houlbert, 1915, comb, nov.
分布:中国(チベット自治区、四川省、雲南省、貴州省)/ Tibet, Sichuan, Yunnan, Guizhou, China
サイズ:♂24.0~37.3ミリ、♀19.6~21.9ミリ
珍品度:少ない☆☆☆☆
中国西部に生息するオニクワガタですが、過去に入荷した個体はほとんど四川省の個体だったように思います。
大図鑑によると、「♂は褐色~黒褐色で、かすかに唐金色をおびる。頭部は中央部で浅く逆三角形状にくぼみ、側縁の前方はほぼ直角に小さく角ばる。頭楯は横に長い四角形状で、両端はやや尖る。長歯型の大あごは細長く前方に伸び、頭部の長さの約2倍で、ゆるやかな弓状に湾曲し、先端部で上下に二又に分かれ、上方のものはやや短くて先端は鋭く尖り、下方のものは先端が前後に二又に分かれ、個体によっては、二又部分の間に1~数本の小内歯が並ぶ。大あごの基部にごく小さな1~2本の三角形状の内歯が現れる個体もある。♀は黒褐色で光沢があり、上翅がやや長い。」と記載されています。(『世界のクワガタムシ大図鑑』, 2010, 藤田宏 P166より抜粋)
以下は四川省のマップです。
四川省は中国の中でも貴州省や海南島あたりと並んで比較的昔から生体が入荷している地域ですね。ただし、本種が入ってきたという記録はここ5年ぐらいの話のような気がします。近年はチベット自治区当たりの方がフォーカスされてる感があるので、入荷が減っている産地となりつつあります。
そもそもの話なんですけど、オニクワガタの野外品ってほぼ例外なく寿命が短いので、輸入が難しいんですよね。近場である台湾のオニクワガタですら、ほとんど入ってきません。もっと日本のキンオニ寄りの種類(例えば一昨年入荷のあったクラッペリッチオニなど)は低温環境であれば比較的寿命があるので、入れやすいかもしれません。それでもインド方面はかなり厳しいでしょうね。入ったら奇跡。
なお、2019年はミヤシタオニが1♀入ってましたが、入荷して1週間程度で落ちたみたいです。
このトリアピカリスオニですが、実はオニクワガタ属の中では、日本から朝鮮半島にかけて生息するキンオニクワガタの次に大きくなる種類です。
(あくまで個人的な意見ですが)実際のところ、大型個体が見つかっていないだけで、40ミリ超の個体も存在すると思います。
キンオニの飼育レコードが40ミリ(多分今年更新されると思いますが)なので、実質最大種といっていいでしょう。
ちなみに、オニクワガタの中でも歪な形状の種類であるため、記載時はGonometopus属として1属1種で記載されたそうです。なお、♀の形状はほぼほぼオニクワガタなので、現在の区分は妥当なのでしょう。
この属に関しては、正直研究が進んでいない部分も多いと思いますので、今後の研究に期待ですね。
「BE-KUWA50号 インドのクワガタムシ大特集」(2014年, むし社)においても「世界クワガタムシ大図鑑」(2010年, 藤田宏)において掲載されていないブレッドシュネイダーオニクワガタ(Prismognathus bretschneideri)やパルブスオニクワガタ(Prismognathus parvus)、不明種などが図示されており、特にインド〜チベットにかけての研究はさらなる新種の発見があると思われます。
なお、このあたりのオニクワガタは現地では2,000〜3,500m級の標高で得られるとのこと(採り子もいないそう)。ネパールのアーチェルニセヒラタやチベットのプロメテウスミヤマもこういう感じの高標高に生息しているようですが、本当に海外の山脈ってすごいですね。
まぁ、前述したようにミヤマより寿命の短いオニクワガタに関しては、生体での入荷は不可能でしょうけど。
■2018年8月 幼虫入手
横浜のイベントにて購入。
金額は忘れました。
詳細はこちら。
幼虫飼育は安定した羽化を目標に、無添加の1次発酵マットに500ccボトル、温度は20度で管理しました。
■2019年12月末 羽化
マットが乾燥気味だったせいか(マット交換は1回のみ)、かなり時間がかかりましたが、ようやく羽化してきました。
そして奇跡的にペアがそろいましたので、ブリードすることに。
正直諦めていたので、ここはかなり嬉しかったです。揃って羽化して初めてスタートライン。
本当にこのPrismognathus属というのは、寿命が最大のネックで、1か月の羽化ずれでも致命傷になりますので、安定して累代するにはうまく羽化時期を調整するか、ある程度数を抱えるしかないですね。
羽化した個体の紹介。冒頭の個体です。
幼虫期間が長かったおかげか、無事に長歯型が羽化してきてくれました。
横から見ると、二又状の内歯が上に反り上がっているのがよくわかります。
本当にオニクワガタと思えないほど、立派な大あごです。
色彩は安定のゴールド。
そして、本当にカッコ良いですね。
次に♀。
♀はオニクワガタっぽい♀ですね。
これもメスは黒いです。
トリアピカリスオニクワガタ
Prismognathus triapicalis Houlbert, 1915, comb, nov.
産地:中華人民共和国 四川省Mt. Nibashan / Nibashan, Yingjing Xian, Yaan Shi, Sichuan Sheng, China
累代:WF2
羽化日:2019年12月
ちなみにこのような名称の山があるのかは不明です。一応四川省雅安市滎経県にそのような地名があることは確認しましたが…。
■2020年1月6日 ペアリング
500ccボトルに適当に水苔を敷いてペアリングを実施。
ここは普通のオニクワガタと同様に、すぐにペアリングできました。
念のため1日同居。
■2020年1月7日 産卵セット
一般的なオニクワガタのセットにて組みました。
おそらくオニクワガタは全種このセットで大丈夫です。
セット日:2020年1月7日
ケース:小ケース
材:柔らかめのクヌギL材
マット:無添加1次発酵マット
水分:普通
温度:20度
材はボーリン用にとっておいた、柔らかめでかつやや太さのある非常に品質の良いものを使用しました。
クラッペリッチの反省を生かし、加水もほどほどに、マットも適度な加水にとどめました。
オニクワガタ全般としてやや低温の方が、寿命も産卵も安定するので、温度はいつも通り20度。
寿命が短い種なので、1つのミスも許されない1発勝負のセットです。
■2020年5月10日 割り出し
実は3月半ば頃から幼虫が見えていましたので、少し安心の割り出し。
オニクワガタ全般、産卵自体はほぼほぼ材にしますが、幼虫は溢れてマットにいますので、1.5~2ヶ月程度経っても幼虫が見えない場合には、失敗していることが多いです。
出ますね。
材の中にも多くいます。
芯の方にもいました。
サイズもちょうど良いぐらいですね。
結果は、21頭。
やや少ないですが、累代はできそうな数ではあります。この手の虫は成虫で放出できないので(寿命が短いので販売しにくい)、幼虫で放出するのが得策なのですが、数が少ないのですべて飼育します。
本種ですが、飼育している人は知っていますが、おそらく国内で飼育している人数は5人程度と思われますので、絶やさないように飼育したいですね。できれば野外品を入れてほしいところです。
■飼育まとめ
ということで、幼虫から始めて幼虫を得られたということで、無事に1サイクル。
飼育の感想です。
●親生体の入手
野外品が入ったら入った日に連絡して買う。それしかないかと。
オークションはここ数年で1ペアだけ見ました。標本はよく出てます。
幼虫での販売も今後はあまり期待できないと思います。野外品の入荷を祈りましょう。
●産卵について
通常のオニクワガタと同じで大丈夫です。
特にひねったことをせずとも、そこそこ柔らかめの材と温度さえキープできていれば産卵は難しくないと思います。やはりネックはキンオニの飼育記で散々書いた寿命。羽化時期を何としても合わせるのが大事です。
●幼虫飼育について
マットは無添加しか使いませんでしたが、今回はキンオニと同じレベルの添加マットを使用しての飼育を考えています。飼育で40ミリを出したいですね。
あとは温度にさえ気を付ければ問題なし。
過去にアルクアトゥスオニ(Prismognathus arcuatus)というのが入荷しており、累代も成功しているのを知っているのですが、どなたか飼育している人いませんかね。